葬儀業界のビジネスを、通して読む
亡くなる人は増えてきたのに、葬儀社は楽になっていません。遺族は比べる時間のないまま高い買い物をし、事業者は鳴るか分からない電話を24時間待っています。遺族と葬儀社の間に入ったのがネットの集客サービスです。お金の流れと困りごとを、順に追います。
件数は増えるのに、売上は伸びない
葬儀は「多死社会だから伸びる産業」と言われがちですが、数字はそう単純ではありません。経済産業省の統計では、2019年から2024年のあいだに取扱件数は12.6%増えました。一方、1件あたりの売上は134.3万円から121.5万円へ、9.5%下がっています。売上の合計はようやくコロナ前の水準に戻ったところです。
| 年 | 売上高 | 取扱件数 | 1件あたり |
|---|---|---|---|
| 2015 | 6,065億円 | 419,815 | 144.5万円 |
| 2017 | 6,112億円 | 435,001 | 140.5万円 |
| 2019 | 6,001億円 | 446,724 | 134.3万円 |
| 2021 | 5,158億円 | 458,399 | 112.5万円 |
| 2023 | 5,945億円 | 501,533 | 118.5万円 |
| 2024 | 6,109億円 | 502,921 | 121.5万円 |
経済産業省 特定サービス産業動態統計。互助会保証による整理(2025年6月)。調査対象の企業だけの数字で、業界全体ではありません。
単価が下がった理由は、葬儀が小さくなったことです。喪主への調査では、家族葬が47.0%、一般葬が30.2%、一日葬が11.9%、直葬・火葬式が10.8%でした(鎌倉新書 第7回調査、2026年)。参列者が減ると、葬儀社の利益を支えていた飲食と返礼品も一緒に減ります。
しかも2025年は、死亡数そのものが158万9,489人と前年より約1.6万人減りました(厚生労働省 人口動態統計 概数)。件数が毎年増え続ける前提も、当てにはできません。
数字を読むときの注意。市場規模は、経済産業省の統計では約6,100億円、矢野経済研究所の推計では約1兆8,300億円です。前者は調査対象企業の売上、後者は飲食と返礼品を含めた全体の推計で、測っているものが違います。
葬儀費用の「平均」も、鎌倉新書の調査で118.5万円(2024年)から96.73万円(2026年)に変わりましたが、これは集計方法の変更とみられ、値下がりを意味しません。経済産業省の統計は2024年12月で終了しており、件数と単価の公式な時系列はここで途切れます。
誰が何で稼いでいるのか
遺族が払うお金は、いったん葬儀社に集まり、そこから周りへ分かれていきます。相関図で全体を、見積書で金額の内訳を見られます。ここでは稼ぎ方の違いだけを並べます。
- 葬儀社は、祭壇や棺、運営スタッフを含む「葬儀一式」と、飲食・返礼品・生花の手配で得る差額が収入です。上場している会社の営業利益率は7〜14%ほど。会館と車両と24時間の待機が固定費になります。
- 火葬場は全国に1,349施設あり、97%が公営です。ただし東京23区は火葬の84%を民営が担い、料金は9万円からです。公営の住民料金は約9割が無料か2万円未満なので、住む場所で負担が大きく変わります(東京都の検討会資料)。23区の火葬場を運営する広済堂ホールディングスでは、火葬場に併設した式場などの事業の利益率が約35%に達します。利益率が高いのは、火葬場を持つ側の事業です。
- 互助会は、生前に月々の掛金を集めます。業界全体の前受金は約2.4兆円で、保全が義務づけられているのはその半分です。残りは会館への投資などに回せるため、金融業に近い性質があります。契約口数は2013年の2,396万口をピークに減っています。
- 寺院へのお布施は葬儀社の見積書に載りません。平均は22.9万円(鎌倉新書 2024年調査)で、遺族が直接渡します。
- 仕出し・返礼品・生花の業者は葬儀社に卸し、葬儀社が差額を乗せて遺族に請求します。
- 仏壇・墓・相続などの事業者は、葬儀社やポータルに紹介料を払って顧客を得ます。墓の購入では樹木葬が47.4%を占めるようになりました。
事業者の数は、許認可が要らないため正確には分かっていません。4,000〜5,000社程度とされ、主要505社の76.2%は売上5億円未満です(東京商工リサーチ 2025年)。2024年の休廃業・解散は66件、倒産は8件で、2013年以降で最も多くなりました。その一方で、燦ホールディングスは約2年のあいだに上場2社を取り込んでいます。小さな会社が退出し、大きな会社が買収で規模を広げる流れです。
ネット集客の定額型と紹介型
遺族の多くは、亡くなってから検索します。その検索を入口にして広がったのがネットの葬儀サービスで、公正取引委員会は2つの型に分けています(2021年12月)。
定額型
サービス側がプランの内容と料金を決め、提携する葬儀社に施行を委託する。小さなお葬式、よりそうお葬式、イオンのお葬式など。
紹介型
葬儀社が自分で決めたプランと料金を紹介し、仲介する。いい葬儀、安心葬儀など。
定額型は「紹介」と呼ばれることが多いのですが、仕組みは元請けに近いものです。料金を決めるのはサービス側で、葬儀社は遺族から代金を集め、サービス側の取り分を払い、残りを受け取ります。価格を決める権利が葬儀社から離れることが、いちばん大きな変化です。
取り分の料率は公表されていません。業者のコラムや伝聞では売上の10〜30%と言われますが、裏づけのある数字は見つかりませんでした。遺族にも葬儀社にも見えにくいこと自体が、この業界の特徴です。
公表されている数字で手がかりになるのは、紹介型の最大手、鎌倉新書の「いい葬儀」です。2025年1月期の1年間で紹介は37,780件、そのうち成約は9,628件で、成約率は約25%。受け取りは成約1件あたり約10〜13万円でした(決算説明資料から集計)。成約で課金する商売は、年に数万件を紹介する規模と、成約を確かめるコールセンターがあって成り立っています。
定額の表示は、トラブルにもつながりました。「追加料金不要」とうたいながら追加料金が発生していたとして、イオンライフ(2017年)、ユニクエスト(2018年)、よりそう(2019年)が景品表示法の措置命令を受け、ユニクエストには1億180万円の課徴金が課されました。2026年9月にも、CMで「家族葬10.45万円〜」と表示し、実際には30万8,000円以上が必要だった事業者が処分されています。
大手でも集客は検索頼みです。鎌倉新書は有価証券報告書で、検索エンジンの表示方針の変更を事業上のリスクに挙げています。そのため各社は、自治体との連携、保険会社との提携、直営ホールの出店といった、検索の外の接点を増やしています。
お葬式のいろはの立ち位置
お葬式のいろはは、自分では葬儀を行わず、成約の仲介もしていません。記事と全国の葬儀社の一覧で情報を届け、葬儀社への電話、公式サイト、LINEへ送り出すところまでを担う、比較メディア・検索サイトです。相関図では二重の枠で示しています。
以前は葬儀社から料金を受け取る仕組みを3つ設計していました。月額の掲載料、通話が60秒を超えたら成果とみなす電話の成果報酬、日額の優先表示枠です。いずれも現在は使っておらず、収益の取り方を見直しているところです。
調べた範囲では、この立ち位置から取り得る方法は次の4つです。
- 掲載料。国内には、ページ作成は無料、連絡先の掲載が月額833円、都道府県ごとのバナーが月額1万円という例があります(葬儀のデスク、2021年)。単価は小さく、掲載社数が要ります。
- 問い合わせごとの課金。英国の比較サイトには、掲載は無料で問い合わせ1件につき45ポンドという例があります。成約を確かめなくてよい分、小さな規模でも運用できます。
- 成約ごとの課金。1件あたりの金額は大きいものの、前の章のとおり件数とコールセンターが前提です。
- 葬儀のあとの領域への送客。鎌倉新書の成約1件あたりの受け取りは、相続で約10〜12万円、介護で約22〜24万円と、葬儀と同じかそれ以上です。葬儀そのものより、あとの手続きのほうが取り組みやすい可能性があります(これは調査からの解釈で、確かめた事実ではありません)。
収益の取り方とは別に、価格の表示も役に立てる点です。英国では2021年から、葬儀社が標準化した価格表を店頭とウェブに掲げることが義務になりました。日本に同じ決まりはありません。総額がいくらになるのかを出典と確認日つきで示すことは、それだけで遺族の役に立ちます。
遺族の困りごと
時間の順に並べると、困りごとは次のように続きます。ふたつの視点では、同じ場面を事業者の側と並べて読めます。
- 準備も比較もしないまま当日を迎える。事前に準備していなかった人は63.8%。業者を自分で決めた人の87.1%は、1社しか見ていないか、見積を取っていません(鎌倉新書 2026年)。
- 運んでくれた会社に、そのまま頼む流れになる。断ろうとしたら搬送費20万円を請求すると言われた、という相談例が公表されています。
- 広告の「〜円から」と総額が違う。葬儀サービスの消費生活相談は2019年度の632件から2024年度の978件へ増え、料金に関する相談の割合は33.2%から52.6%に上がりました(国民生活センター 2026年)。「家族葬50万円」の表示で総額が200万円を超えた例もあります。
- 火葬を待つあいだに費用が増える。東京都内の混む施設では、申込から火葬まで通常期で約4日、1月は平均8.3日。そのあいだ、安置料とドライアイス代がかかり続けます。
- お布施の金額が分からない。喪主が最も困ったことの1位は「お布施の相場・マナー」でした。
- 葬儀のあとの手続きが多い。役所、年金、銀行、相続と続き、「めんどくさい」「わかりにくい」という声が多く挙がっています。
こうした困りごとの背景には、葬儀を買う回数が極端に少ないことがあります。喪主になるのは人生で数回で、前回の経験も相場もほとんど役に立ちません。
事業者の困りごと
- 葬儀社:単価が下がり続ける。1件あたりの売上は2015年の144.5万円から2024年の121.5万円へ。葬儀社自身が、家族葬の小規模化とポータルの価格競争を理由に挙げています。
- 葬儀社:人が採れない。葬儀師・火葬係の有効求人倍率は7.59倍で、全産業の1.35倍を大きく上回ります。事業者の58.3%は従業者4人以下。人手が足りずに施行を断る会社も出ています(経済産業省 2025年)。
- 葬儀社:集客をポータルに頼ることになる。ポータルに頼ると、取り分を払ったうえに価格の決定権も渡すことになります。次に同じ家族から頼まれるのは数十年後なので、事前相談や会員制度で先に関係を作るしかありません。
- ポータル:葬儀社を囲い込みたい。最大手は、他社と取引しないことを条件に取り分を優遇する制度を設け、公正取引委員会の審査を受けて廃止しました。その後は直営ホールを増やす方向へ進んでいます。
- 納入業者:しわ寄せを受ける。葬儀社との取引1,451件のうち29.9%で、購入の強制や買いたたきなど、問題になり得る行為がありました(公正取引委員会 2017年)。
- 火葬場:増やせない。新しい施設は建てにくく、東京都は今のままでは2035年頃に対応が難しくなると試算しています。
- 寺院:檀家が減る。葬儀が小さくなり、法要も省かれます。定額の僧侶手配には、宗教行為に値札を付けるものだという反発がありました。
両者がぶつかるところ
遺族の困りごとと事業者の困りごとは別々の問題ではなく、同じ場面で向かい合っています。
- 最低価格の表示。事業者は安い数字で目を引きたい。遺族は総額を知りたい。処分は事後の是正で、事前に総額を示す義務はありません。
- 当日の判断。遺族に比べる時間がないことは、事業者にとっては単価を上げられる場面でもあります。
- 見えない取り分。ポータルの取り分は遺族に示されません。取り分で薄くなった利益をオプションで補おうとすれば、追加料金のトラブルにつながります。
- 火葬料。民営の火葬場の値上げに、行政が関与する規定がありません。
これから動きそうなこと
- 東京の火葬場。東京博善は2024年に火葬料を9万円に上げ、2026年3月末で区民葬の取扱いをやめました。東京都と特別区は、料金への行政の関与と、経営者が変わるときの許可制を国に求めています。
- 業界の再編。大手による買収と、小さな会社の退出が同時に進んでいます。
- 互助会の前受金。経済産業省が2026年2月から、前受金を使える範囲を広げるかどうかを検討しています。
- 遺体の取扱い。参入に許認可が要らない状態が続いており、厚生労働省は2025年10月に事業者向けのガイドラインを出しました。登録制度も議論されています。
- 葬儀の前後へ。葬儀社もポータルも、相続、不動産、保険、墓へ事業を広げています。1回きりの葬儀で下がった単価を、前後の関係で補う動きです。
この文章の限界
2026年10月時点で調べた内容です。次の点は裏づけが取れていません。
- ポータルの取り分の料率、定額型で葬儀社が受け取る金額。
- 病院で亡くなってから搬送までに使える時間、病院が紹介する葬儀社の割合。
- 全国の火葬待ち日数。数字があるのは東京都と横浜市だけです。
- 葬儀社の原価の内訳、会館の稼働率、未収金。
上場各社の数字の一部は、決算短信そのものではなく集計サイトから確認しています。見積書のページの金額は、説明のために作った架空の例です。